トントントン、トントントン
おっさんに肩を叩かれて起こされ、降ろされた。
休憩かと思い物売りの兄ちゃんから1000ルピア(10円)のインスタントコーヒーを買って一服しながらバスの後ろで座っていた。
12月26日 AM6:00
一服を終え、バスに乗り込んだが、運転手も乗客も居ない。
降りて周りを見たが、やはり誰も居ない。
は?どうすんの?え、ジョグジャカルタ着いた?
もっと時間かかると思ってたけど、、、
とりあえずバスターミナルを出てみよう。
ということで、バスターミナルを出るとSURABAYAと言う看板が見えた。
何故だ。
もう一度ターミナルの中へ入り、歩いてみた。
ジョグジャカルタと書かれたバスを見つけ、とりあえず、この中座っといたら着くやろ。と浅はかな考えで乗車した。
するとバスの運転手がチケットを見せろと言うのでチケットを見せたらシッシと追い出された。
運転手にどうしたらいいか尋ねると『知らねぇよ』との事だ。
さっき乗ってたバスすらもうわからない。
ウロウロしていたらおっさんにこっちだ!何やってる!みたいな感じで腕を引っ張られバスに放り込まれた。
すんげーボロボロのリクライニング無し、エアコン無し、USB無し、トイレ無しのクソバスだった。
えー、コレ?最悪やー。
人はぎゅうぎゅに詰め込まれ席は埋まり、立っている人も居た。
窓全開のバスはのそ〜っと出発した。
インドネシアには火山が多く、トンネルがない。
だから山をぐる〜っと回って何時間もかけて目的地へと向かう。
左側にずーっと、寝ても覚めても同じ山が見えていた。
スマホの充電は切れ、何の匂いだかわからない匂いが窓から入って出てを繰り返していた。
12月26日 ジョグジャカルタへ向かう車中
トントントン、『よぉ、日本人か?』
隣の青年が話しかけてきた。
私は見ず知らずの人間に触られるのがイヤだ。
少し不機嫌そうな表情で『そうだ』と答えると、写真を撮ろうぜと言ってきたので、不機嫌そうな顔で一緒に写真を撮った。
私はGoogle翻訳がないとコミュニケーションが取れない。
簡単な英語くらいなら何とかなる程度だが、英会話は出来ない。
しかし、暇なのである。
なので、英会話とインドネシア語を学ぶ事にした。
青年『何しにインドネシアに来たんだ?』
『グヌンパダンへ行くのさ』
青年『何だそれ?』
『ピラミッドさ』
青年『は?インドネシアにピラミッドがあるの?』
『あるよ』
青年『どこに?』
『チアンジュールさ。ボゴールの近く』
青年はスマホで調べてコレか?と見せて来た。
『ああ、そうだ』
青年『めっちゃ遠いじゃん!日本からならジャカルタから行けよ!』
『俺は暇なんだ』
青年『インドネシア人でもこんなところから、こんなとこへ行かないよ!』
『暇なんだ』
青年『お前、1人か?』
『ああ、そうだ』
青年『それで、インドネシア語も英語も話せない?』
『ああ、そうだ』
青年『どうかしてるぜ!イカれてるぜ!』とケラケラ笑った。
休憩所に着いても引っ付いてきたので一緒に居た。
青年『ところで、お前が巻いているソレは何だ?』
『これはヨーロッパ産だ』
青年『一本くれないか?』
『これは高いんだ』
青年『これと交換しないか?これはアチェ産だぜ』
『種、茎が入ってる。粗悪品だ』
青年『頼むよ、一番良いところをあげるからさ』
『いらない。けど、まぁ俺のをあげるよ。その代わり君は語学の先生となれ』
青年は『もちろんさ』と言い、火を着け深く吸って吐いた。
青年『いいねぇ』
『だろ』
そして、コレも良いぜと言ってワサビ豆をやった。
案の定の反応だったので腹を抱えて笑った。
青年はもう1つくれないか?と言ってきたので、小分けにされたものを1つ渡して、次の停留所で降りて行った。
おい、先生の時間短すぎるやろー!
12月26日 ジョグジャカルタへ向かう車中(昼頃)
スマホの電池切れにより、時間もわからなければ写真も撮れない。
ずーっと同じのどかな景色にも飽きてきた頃だ。腹が減った。
バスが止まるたびに物売りが乗ったり降りたり。
ギターを弾き語るヤツも居てチップを要求される。
強者はアカペラで歌い、更なる強者はペットボトルに石を入れ楽器として使用し、演奏して見せた。
彼らは至って真面目だ。真剣な眼差しでアカペラを歌い、真剣な眼差しでペットボトルをシャカシャカ振っている。
寝ている奴が居てもお構いなしに最大限に自己表現をする。
苦痛だ。
ようやく、食事を売る人たちが現れた。
カップ麺売りのおっさんに続いて、弁当売りのおばちゃん、更に続いてカップ麺売りのおっさん。。。
いやいや、1人でえーやろ!と心の中で思いっきり突っ込んだ。
狭いバス車内に2人も同じもん売っててどうすんねん。野球場ちゃうぞー!
と、思っていたが、1人目のおっさん以上に3人目に入ってきたおっさんがバンバン売り上げていた。
え、なになに?ちょっと待って、揺れるバスの車内でカップ麺食うの?
え、結構買うやん。
バスには2つドアがある。前から乗ってきて後から降りるタイプだ。
つまり、そうか。1人目のおっさんは宣伝効果に過ぎず、人々が『あ〜カップ麺か〜、カップ麺いいね〜、どうしよっか』と悩んでいるうちに1人目のおっさんが降りていく。
そこで3人目のおっさんに対して、悩んでいた奴ら全員の目が行くのか。
そうして、俺もくれ、私もだ、こっちもよ、おいこっちにもくれ、状態が産まれるのか。
3人目のおっさんは3人目を狙っているんじゃないだろうか。
2人目のおばちゃんは3人目のおっさんの恩恵を受けて米が売れている。
これは凄い相乗効果だ。1人目が犠牲になることで、後の2人がガッツリ儲けるんだ。
車内にカップ麺の匂いが充満してきた。うわー腹減ったなー。
おっさんカップ麺ひとつー!と私が言う頃には、おっさんもおばちゃんも居なかった。
そしてバスは動き出した。
私の隣のおっさんのカップ麺の汁がハネる。
足元にカップ麺の汁が後ろから流れてくる。
ほーら、言わんこっちゃない。
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