トントン、トントン
部屋のドアからノックの音が聞こえた頃、目が覚めた
ボーイ『ヘロ〜ミスター、チェックアウトの時間過ぎてるぜ〜』
12月27日 PM13:00
寝過ぎた。
部屋から出るように言われたが、半日分払うから用意させてくれ。と交渉した。
私の中で起きてからの儀式がある。
シャワーを浴びて歯を磨かないとどうも調子の悪い1日になる経験が多くあったので儀式だけは済ませたかったのだ。
スッキリ目覚めることができてボーイにチップを払いホテルを後にして駅へと向かった。
もうバスはイヤだ。
列車で次の街、バンドゥンへ向かうことにした。
12月27日 PM3:00 ジョグジャカルタ駅
15時ジョグジャカルタ駅に着いてチケットを買うが、次の列車に空席は無いそうで、次の次の列車に乗ることになった。
20時発なので、微妙に時間があったから駅周辺を散歩をした。
おばちゃん『やぁ、どうだい?食べるかい?』
『じゃあひとつちょうだい』
おばちゃん『じゃあちょっと待ってて。あなた日本人?この娘と結婚してくれないかしら?』
『僕は悪い男だからやめておいた方がいいよ』
おばちゃん『いいんだよ、日本人は金稼いでるんだから。大金持ってたらこの娘は何も言わないよ』と笑っていた。
おばちゃん『はい、できたよ』
『ありがとう』
おばちゃん『ちょっと、ちょっと待ちな!』
私は振り返った。
おばちゃん『娘を忘れてるよー!』と笑った
『また迎えに来るよ』
そう言って手を振ってその場を去った。
活気があって元気のいい街だ。
バックパッカーと称する大学生
日本人ですよね?
そう、後ろから声をかけられ振り返った。
顔、腕、足が赤いブツブツの日本人の男が私に声をかけて来たのだ。
『え、何?』
そのブツブツは虫によるものだと理解でき、非常に気持ち悪かったので少し距離をとった。
聞くところによると、大学生のバックパッカーで一人旅にきていると言うのだ。
『っで、何か用?』
大学生『南京虫って知ってますか?』
『知らん』
大学生『南京虫に刺されて全身にブツブツが出来て痛くて痒いんです。何か薬持ってませんか?ムヒアルファEXが効くらしいんです』
『いや、南京虫って何なん?』
大学生『僕も詳しいことはわからないんですけど、インドネシアの安宿の布団は湿ってて、ちゃんと干したり洗濯されてないから南京虫が繁殖しやすいらしいんです。』
『何で南京虫に刺されたってわかるの?』
大学生『ネットで調べました』
『ふーん。薬は何ひとつ持って来てないし、俺は正しい診断も診察もできないから、俺に声かけるよりも病院に行った方がいいんじゃない?』
大学生『僕、英語もインドネシア語もできないんですよ』
『そっか』
大学生『どうしたらいいですかね?』
『いや、わからん』
大学生『自分1人で病院に行っても言葉が通じないから意味がないと思うんですよ』
『え、もしかして、俺、英語とかインドネシア語ができると思ってる?』
大学生『え、できないんですか!?!?!?』
『できないよ』
大学生『えーー、でもバックパッカーですよね?』
『え、バックパッカーは全員英語できるの?』
大学生『あ、いや、慣れてる方が多いのかな〜と思いまして』
『君がそのバックパッカーなんじゃないの?俺は別にバックパッカーじゃないからね。旅に多い荷物は邪魔だし、荷物もそもそも少ないからリュック一つにまとまっただけやからね』
大学生『えー、そうなんですか〜。どうしましょ?』
『え、君が考えることじゃない?この困ったことも含めてバックパッカーの旅じゃないの?俺が提案できるのは病院に行くことくらいだよ』
大学生『そうですよね。じゃあ自分で何とかやってみます』
『まぁ、頑張って』
そう言って背を向けて歩こうとすると
大学生『あの、LINEってやってますか?』
『やってるけど?』
大学生『せっかくなんで、LINE交換しませんか?』
『俺にしてみればせっかくじゃないの』
大学生『次どこ行かれるんですか?』
『バンドゥン』
大学生『へぇ〜、どこなんですか?』
『あのね、君がブツブツになったことは可哀想に思うけど、俺は何もしてあげられないし、何ひとつの薬も持ってない』
『医者でもないし、何の役にも立たない。だから今この時間は何の意味もない』
『俺にとっての、せっかく、と言うこと、それはせっかく年に一度のインドネシア旅行なんだから、ゆっくり旅したいの。わかる?』
大学生『でも、本当に自分、今困ってて』
『俺は見捨てるのじゃなくて、助けられないの。だから俺も今、困ってるの。わかる?俺は君を助けるには無力すぎるの。2人が合わさっても何もできないの。君だけが困ってるんじゃないの』
大学生『はい。』
『予想できないことが起こることが旅なんじゃない?だいたい予想できることが起こるのが日常なんじゃない?そんな予想できる世界から飛び出したかったんじゃないの?』
大学生『、、、はい』
『必要最低限の持ち物で旅するのがバックパッカーなんじゃないの?バックパッカーで行くって決めたのであれば、最後まで突き通すべきだと思うよ』
大学生『甘かったですかね?』
『それは知らんけど、そこの角を曲がった突き当たりのカフェに信用できるかどうかは判断が必要だけど、構ってくれるインドネシア人がいるよ。俺にできるのはここまで』
『そろそろ店も開く時間だと思うから、行ってみたら?』
大学生『え、もう、お兄さんはどこか行かれるんですか?』
『君と一緒にいる必要がないからね』
『君は、せっかくなんだからバックパッカーを楽しむべきだし、色んな経験をして帰国するべきだと思うよ。じゃあね。』
そう言って私はその場を去り、安すぎるホテルには泊まらない決心をした。
12月27日 PM6:00
泊まっていたホテルに戻り、ボーイにシャワーを浴びさせてくれとお願いした。
右手には5万ルピア(500円ほど)をチラつかせる、何とも卑劣な作戦だ。
ボーイは『いいぜ』とニヤけて案内してくれた。
私は1000円払ってでもシャワーを浴びたいのだ。
そうしなければ眠れない。
昨日、話した背の高い男とも会った
男『へい、最後に一本くれよ』
『いいぜ。あぁ、そうだ、コレもやるよ』
男『何だこれ?』
『日本の豆菓子さ。食べてみろよ』
男はひとつつまんで口に入れた。
男『おー、なんだこれ?ゲッホゲッホ、おえー!』
ワサビ豆だ。
笑って別れを言ってジョグジャカルタ駅へと向かった。
12月27日 PM7:00
『ヘーイ、待ってたわよー!迎えにきたんでしょー!』
串焼き売りのおばちゃんだ。
『OK、娘、一緒にバンドゥンに来るか?』
娘は恥ずかしそうに、うつ向いて笑っていた。
『じゃあ、おばちゃんが一緒に来るか?』
おばちゃん『おー、嬉しいわー!だけど仕事があるからねー』
『だよね、また来るよ』って軽くフラれてる。
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